明けましておめでとうございます。
改めまして、オオサキリューシといいます。
大学時代を香川県で過ごし、現在は東京のマーケティング支援会社であるトライバルメディアハウスで企業のマーケティング課題の解決やプロモーションのプランニングをやっていたりします。カタカナばかりですみません(笑)
今年一発目のブログ記事は、昨今「アート×地域」を切り口に日本各地で開催されている「芸術祭」。
新潟県の「大地の芸術祭」、香川県の「瀬戸内国際芸術祭」、札幌市の「札幌国際芸術祭」、横浜市の「横浜トリエンナーレ」などなど、ここ数年で様々な地域で芸術祭が開催されるようになりました。しかし、すべての芸術祭が成功しているワケではありません。ある地域では、クリエイティブディレクターやアートディレクター等のトップ層をガチガチのメンバーで固めてしまったために、市民のアートへの意識がついていかず、運営側と市民との間に乖離が生れたという話も聞きます。
日経新聞より抜粋
その中でも、上の新聞記事のように、瀬戸内国際芸術祭は単なるアートイベントにとどまらず、文化継承とともに、国内外から何百万もの人が動く、大きな経済効果のあるムーブメントになりました。
そして2016年の今年、3年に一度の「瀬戸内国際芸術祭」が開催されます。
私自身、香川県で大学時代を過ごす中で、この瀬戸内国際芸術祭に関わる機会を二度も頂きました。その中で、香川県のこと、瀬戸内のこと、そして瀬戸内に浮かぶ島々に愛着を持つようになり、今でも瀬戸内に関わる、地域に関わる仕事をすることを願ってやみません。
そんな学生時代の経験と、今の私のマーケティング業務にもつながっていることが多く、今回なぜ瀬戸内国際芸術祭がここまでの成功したムーブメントになったのか、他地域の方々の皆さんにもお伝えしたいと思い、記事にしてみようと思いました。
活動の根幹となる「コンセプト」と「ブランド戦略」
瀬戸内国際芸術祭のコンセプトは「海の復権」。そして、芸術祭のウェブサイトにはそれを説明する次の文章が掲載されています。
古来より交通の大動脈として重要な役割を果たしてきた瀬戸内海。行き交う船は島々に立ち寄り、常に新しい文化や様式を伝えてきました。
それらは、個々の島々の固有の文化とつながり、育まれ、美しい景観とともに伝統的な風習として今に残されています。
今、世界のグローバル化・効率化・均質化の流れの中で、島々の人口は減少し、高齢化が進み、地域の活力の低下によって、島の固有性は失われつつあります。
私たちは、美しい自然と人間が交錯し交響してきた瀬戸内の島々に活力を取り戻し、瀬戸内海が地球上のすべての地域の 『希望の海』 となることを目指し、瀬戸内国際芸術祭を開催します。
瀬戸内国際芸術祭のアートディレクターを務めている北川フラム氏。北川氏は、瀬戸内国際芸術祭よりも前に、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」を新潟にて開催しています。
そんな北川氏が芸術祭を始めるきっかけになったのは、地方で生活をしてきたその土地の人々であったといいます。その”キッカケ”を北川氏が講演にてお話してくれていました。
新潟の越後妻有しかり、瀬戸内の島々に住む人たちしかり、その地域の人たちは過酷な条件の中、必死に自分の土地を守ってきました。
にもかかわらず、戦後に高度経済成長するために人を都市に奪われたり、農業は非効率だという理由で、国から「農業をやめろ」と言われたりして、近代化の犠牲になってきました。
例えば、瀬戸内は豊島の産業廃棄物問題や大島のハンセン病患者隔離問題といったまさに近代化の犠牲になってきたのです。
だからこそ、私はそういった島の人々、島のおじいちゃんやおばあちゃんの笑顔を見るために芸術祭を開催したいと思った。
私自身がそのお話を北川氏の講演で聞いたときに、芸術祭のコンセプト背景にある地理的要因、時代的要因による地域の衰退をなんとかしなければという強い思いが含まれていることが読み取れないでしょうか。
そして、前述した「おじいちゃん、おばあちゃんの笑顔が見たい」という言葉。この言葉は必ずといっていいほどメディアや講演の中で聞かれる北川氏自身の「芸術祭はあくまでもその地域の人たちのために開催するもの」であるというコンセプトが伝わってきます。これが、まず一つ目の成功した理由です。
そして、そのコンセプトを体現すべく、「こえび隊」という瀬戸内国際芸術祭のサポーターチームが事務局によって立ち上げられ、市民の受け皿として、地域住民との関係づくりが始まりました。(こえび隊については、第二話、第三話にてお話させていただきます。)
瀬戸内ブランドを最大化させたコンテキストブランディング
次に、ブランディングの観点からお話させて頂きます。
コンセプトブランディング?なにそれ?という方にわかりやすくいうと、「香川県といえば?」と質問するときっとほぼ全員が「うどん」と答えると言います。
そういう風にある物事に付随する文脈をいかに作り出し、生活者に興味を持ってもらいその土地に訪れてもらったり、商品を買ってもらったりするといったブランディング手法のことです。
では、話を瀬戸内国際芸術祭に戻します。瀬戸内国際芸術祭は、安藤忠雄氏が設計したベネッセハウスミュージアム(1992年)や地中美術館(2004年)を設立するといった活動を行っていた福武財団理事長の福武福武總一郎氏がプロデューサーを務めています。
彼らは、まず「瀬戸内」という地域ブランドをどう定義して芸術祭と接続させるかという点に注目したのではないかと思います。
しかし、瀬戸内という範囲は広大です。西は山口県から東は兵庫県まで入る範囲を私たち生活者は瀬戸内としています。つまり、文脈が非常に曖昧で、ふわっとしています。
そこで、直島瀬戸内国際芸術祭の文脈を世の中に広げていくのに、「核となる瀬戸内を象徴する場所をまずは作る必要がある」。そう判断し、福武財団が所有する「直島」を核として、どう世の中に瀬戸内国際芸術祭を広げていくのかに注力したと考えられます。
そのために彼らが選択したのは、「カボチャ」でした。そうです。デザイナーの草間弥生氏がデザインされたこのカボチャが瀬戸内海のシンボルとなり、多くの人があの場所に行ってみたいと思うようになりました。
ただ、カボチャを建てただけでなぜ多くの人があの場所に関心を持ち、さらには訪れてみたいとおもうようになったのでしょうか?それは、その地域や場所に意味を持たせることをしたからだと私は思います。
上にある写真のカボチャだけを右手人さし指で隠して瀬戸内海の景色を眺めてみてください。そうするとこれが瀬戸内海なのか、それとも他の海外の日本海なのか、太平洋なのか、どこの海なのかぼんやりとした存在(イメージ)になってしまいます。
しかし、そこにカボチャを置くことによってその土地と流れる時間に意味を与えます。カボチャに注目が集まることで、周りの瀬戸内海の風景やそこに流れる時間がより引き立つ存在になるということです。それが瀬戸内海らしさを引き立て、さらには瀬戸内のイメージに繋がるのです。
もしこのカボチャがなければそこが瀬戸内であるということに気づかない生活者は多いと思います。そして、その場所に意味を持たせると生活者はどのような行動をするでしょうか?下の写真を見てみてください。
律儀にも、一列に並んで写真撮影をするようになります。(笑)そうです。このカボチャの非常に優れていることは、どの角度から写真を撮影しても絶対に瀬戸内の海が背景に入るように撮影する場所自体がランドスケープデザインされている点です。
そして、スマホが普及しネット上で観光体験をシェアできるようになった時代だからこそ、SNSやブログを通じてネット上に直島のカボチャの写真が投稿され、「瀬戸内=直島」の文脈が形成される役割を果たすようになりました。
あなたの友達で、この直島のかぼちゃの写真をFacebookやTwitter、Instagramで見たことがある人はいませんか?また、雑誌の表紙でもこのカボチャの写真を見たことがあるのではないでしょうか?きっとそのとき、後ろ側には穏やかな瀬戸内の海が広がっていたと思います。
このように、あなたが直島に行ったことがなくても、この場所が瀬戸内に浮かぶ直島という島に存在するということは私たちは知ることになるのです。
そして、雑誌編集者も下記のようにその地域をイメージしやすい写真を利用し、雑誌を編集します。これによって、その地域のブランドイメージは伝播していくのではないでしょうか?
そして、過去2回の瀬戸内国際芸術祭の参加者の7割ほどが女性観光客であったそうです。強いクチコミ力のある女性層によって情報伝播されたことは容易に想像できます。
結果、上記の図のように、直島と瀬戸内のブランドが接続され、結果的に瀬戸内国際芸術祭のイメージも醸成されていきます。実は、ソーシャルメディアやモバイルが発展した時代における地域ブランディングのヒントが多く瀬戸内国際芸術祭には隠されています。
もちろん、いきなりあのカボチャが置かれれば人が来て写真を撮ってくれるのかというとそういうわけではありません。もともと、安藤忠雄氏による建築や地中海美術館によるアートや建築の文脈が直島に築かれてきていたからこそ成功したと言えます。
また、直島が独り占めすることがないように大竹伸朗氏といった有名アーティストに直島だけでなく、他の島にも作品を作ってもらうことで、横断的に瀬戸内の島々に訪れてもらえるきっかけづくりをしています。
また、大御所だけでガチガチに固めた某オリンピックとは異なり、国内外の大御所デザイナーや建築家、コミュニティデザイナーの作品に加え、瀬戸内国際芸術祭では大学生や若手デザイナーが活躍できる機会も存分に用意されています。(ただ、瀬戸内のアーティストがあまり使われていないじゃないか!といった意見も少数ですが出てはいますが)
そういった、いわゆるボトムアップによる取り組みが瀬戸内国際芸術祭に厚みを持たせます。だからこそ私は地域に関わるイベント等の取り組みがトップダウンによる施策だけではなく、市民主体のボトムアップ施策があってこそムーブメント化すると考えています。
明日第2話では、その理由に迫ります。どうぞご期待ください!
大崎龍史(オオサキリューシ)
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