第2話のおさらい
第2話では、トップダウン施策にボトムアップ施策が掛け合わされることで、芸術祭に厚みができ、様々な文脈で瀬戸内国際芸術祭が語られていき、世の中ごと化し、開催地域内外の人々が芸術祭に関わるようになっていくというお話をさせて頂きました。
最終話となる第3話では、昨今注目を浴びているアーティスト・イン・レジデンスが地域にもたらしたことについてご紹介したいと思います。
アート・イン・レジデンスとは
アート・イン・レジデンスとは、簡単にいうと地域にデザイナーが入りこみ創作活動をすること、してもらうことです。そして、最近ではただアート作品を作ってもらうだけでなく、その地域に”風をもたらす人”として、地域住民との関係性のデザインやその地域が抱えている課題を解決するといった側面もあります。
今回瀬戸内国際芸術祭でも、アート・イン・レジデンスという取り組みが瀬戸内の島々で展開されました。
アート的な側面を少しお話すると、アーティストの作品は今まで美術館やコレクターが飾るため、そのためだけにある意味閉じ込められた存在でした。しかし、アート・イン・レジデンスによって今まで閉じ込められていた作品が開放され、自由に地域の資源や地形、文化に寄り添いながら表現できることでアーティストの活躍の場を広げたとも言われています。
瀬戸内国際芸術祭に関わるきっかけ
実は、本当にたまたまですが、2013年に開催された瀬戸内国際芸術祭にて私自身も海外のアーティストたちとアーティスト・イン・レジデンスの取り組みを2ヶ月ほど真横で体験させて頂きました。
私は大学時代を香川県で過ごしていたため、授業が終わって時間があると島巡りをしていました。そのときに、女木島という島を訪れ、ブラブラしていると海の家でMac Bookを開いてなにか作業している男性に出会いました。
(余談ですが、女木島は別名鬼ヶ島と呼ばれ、この島で桃太郎が鬼退治をしたと言われています。そのとき鬼が住んでいた洞窟は今でも見学可能です。)
その男性は、アメリカから来たアーティストで、島でアートプロジェクトをするんだと言いました。そして私自身もアメリカに留学していた背景から話が弾み、「島の人たちとコミュニケーションを取るために通訳とか翻訳、日本語で編集できる人を探していて良かったらやんない?」的な軽い感じで言われたので、もう授業もそんなないしそんな面白い取り組みができるのならと思い、すぐに返事をしました。
のちのち、実は彼は瀬戸内国際芸術祭に参加するアーティストで、本当はこえび隊経由じゃないと管理できないから、こういう引き受け方しないでと瀬戸内国際芸術祭の事務局スタッフに怒られましたが(笑)
瀬戸内 女木島のアーティスト・イン・レジデンス “Human:Nature”
私が関わったそのプロジェクトは「Human:Nature」というデジタルアートを通じて女木島という場所において人と自然の関係を表現するアートプロジェクトです。
そのアートプロジェクトは、まず島の人たちへのリサーチから始まります。ただ、リサーチといっても固苦しい感じではなく、島の人たちとの会話を楽しみ関係性を作っていく中でアート作りのための情報を探っていく取り組みをしました。下の左の男性が、アメリカのアーティストです。
面白いのが、今まで閉じていた島がアーティストが地域に入ることで、無理やり開く状況になることです。まさに開国です(笑)でもそのおかげで、島の人たちの笑顔の機会が増えました。明らかに、本当に驚くほど島が元気になっていくのが分かりました。
それはまさに瀬戸内国際芸術祭のコンセプトである「海の復権」のために、おじいちゃんおばあちゃんの笑顔を増やしたいという北川フラム氏の思いを体現している瞬間です。
正直、島の人たちはそこまでアートには興味がないでしょう。ただ、アーティストが創作活動をするために島にやってきたという「立て付け」があるからこそ、島の人たちが異物としてではなく、歓迎者として彼らを迎え入れることができました。
そして、アートプロジェクト自体には、アメリカ、ドイツ、韓国という非常に多国籍なアーティスト集団で、デジタルサイネージの技術を活用してサイネージ上で島民の人間関係、島(自然)との関係を表現するという内容でした。
結果、たまたまですが瀬戸内放送の番組にも出演させて頂き、本アートプロジェクトの紹介をさせていただくことができました。そして、瀬戸内国際芸術祭本番中にも多くの人にアート作品に触れていただくことができました。
ロングエンゲージメント×コミュニティマネージメント
ここまでアーティストのお話をさせていただきましたが、実はこういったアーティストの取り組みが可能なのは「こえび隊」というサポーターの存在がいるからです。広告業界でいうエンゲージメントという狭義ではなく、広義の意味で実現してます。
私が関わった女木島においても、会期が終わってからも事務局メンバーを中心にこえび隊メンバーは定期的に島に足を運び、地域の人たちに挨拶回りをし、圧倒的な関係性作りをしています。
言い換えると、こえび隊はアーティストが入りやすい土壌を耕している。そこにアーティストが訪れ、種を蒔き水をあげることで島々で笑顔の花が咲くようになるのではないかと思いました。
UNOICHI実行委員会ブログより掲載
また、この瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、島と島、人と人が繋がり、さらに活気が生まれていきます。そして、事務局メンバーはコミュニティマネージャーとして、その島に関わった人とも定期的に連絡をとっています。本当の意味でのロングエンゲージメント、つまり長期的な関係性作りは開催される年ではなく、開催されない2年間であることを意識した取り組みを行っています。
私自身も女木島で2年に一度開催される島のお祭りに3年前に参加しただけにも関わらず、昨年事務局の女木島コミュニティマネージャーの方からご丁寧に「今年はまだ東京だと思うけど、良かったら島のお祭りに来てね」とメッセージを頂きました。
そういったきめ細やかな積み重ねが、島と人との関係性を保ち続けているのだと思います。
地域活性化の上辺だけの戦術のまねあいへの終止符
今や瀬戸内国際芸術祭は、韓国やヨーロッパからお役所人が視察に来る人たちもいるほどになりました。
しかし、トップダウンの取り組みは絶対にうまくいくはずがありません。なんだか瀬戸内国際芸術祭でも事務局にお役所さんが入るといわれるニュースが出ていましたが、絶対に面白くなくなるからそれだけは止めてほしいです。
直島でさえ、ここまで有名な島になるのに約10年以上の歳月をかけています。
だからこそ、芸術祭が費用対効果ではなく、長期的な投資対効果の上に成り立つことを前提として、芸術祭がデザイナー、地域市民・島民、運営局、そして観光客関わるすべてにとってWin-Winなシチュエーションを作り出し、短期的に自治体や観光協会が飛びつく地域創生戦術の真似あいにならないことが、地域に定着する息の長いムーブメントになる本質であると思います。
まもなく、開幕
個人ブログより掲載
2016年の瀬戸内国際芸術祭。実際に自分の目で確かめに、瀬戸内芸術祭に足を運んで見てください。そこにはきっと、瀬戸内という日本のおへそに位置する海とお遍路さんという文化の上に成り立つ四国の交差点だからこそ生まれた芸術祭があなたを出迎えてくれると思います。
このブログをきっかけに、少しでも多くの人が実際に瀬戸内国際芸術祭に足を運んでみたいと思っていただけると幸いです。(ちなみに、瀬戸内国際芸術祭のウェブサイトはこちらから)
これにて最終話です。最後までお読み頂き、ありがとうございました!
大崎龍史(オオサキリューシ)
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Spetial Thanks : Patrick Lydon fron The United States
記事中画像に関しては、掲載元を書いていない写真に関しては著者撮影。