地域プランナー育成ワークショップ RADLOCALで語られた「地域×メディア」の未来①

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去年から聞くようになった「地域創生」という言葉。

しかし、実際のところ「地域活性化」という言葉同様、オカネを落とすための都合のいい言葉として使われ、その先にどんな地域の未来があるのか語られることはありません。

そんな中、12月に開催された山口芸術情報センターYCAMと文化庁が主催する地域プランナー育成ワークショップ RADLOCAL(ラッドローカル)

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講師は、東京藝術大学大学院映像研究科教授の桂 英史さん、Rhizomatiksの齋藤 精一さん、『WIRED』日本版編集長の若林 恵さん、FabLabKamakura,LLC 代表の渡辺 ゆうかさん、greenz.jp副編集長の小野 裕之さん、FirstClass代表取締役兼 阿東文庫の明日香 健輔さん。

テクノロジーやメディア、コミュニティなどの最先端を行く6人の講師陣をお招きした山口県での数日間のワークショップに参加してきました。それぞれが語る「地域×メディア」の未来とは、どういったものなのでしょうか?

 

阿東文庫の明日香 健輔さんによるフィールドワーク

ワークショップが行われたのは、人口11万人以下の合併によってできた山口県山口市。まずフィールドワークとして、山口市にある廃校になった小学校を利用している阿東文庫を訪れました。
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廃校が地域に根ざしたシンクタンクへ

阿東文庫は、廃校を利用した地域内外の人たちが集まる図書館のような場。始まりは、阿藤文庫の明日香さんがきっかけ。

「ゴミの中に本がたくさんあった。上の世代の人たちにとって、本は高級なモノ。どうにかできないかと思った」と明日香さんは語ります。そこで、廃校になった小学校を本の置き場にすることを思いつきました。

しかし、もちろん行政はこういった取り組みには「No」といいます。だからこそ先にやって既成事実を作ってしまった(笑)と明日香さんはそのときの企みを思い出しながら語られました。その中で、次第に一つの教室だけでは収まりきらないほどの本が集まり、市民の人たちも自由に使えるようにしたといいます。

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ブックツーリズムやライブラリーツーリズムという本との新しい関わり方

デジタルでソーシャルな時代、本をデジタル化することによって知財として本を残していこう、広めていこうという企業や自治体は多く存在します。しかし、テクノロジーは発展を続けておりフォローすることは大変。50年後、私たちが使っている今のjpegは使えないかもしれません。だからこそ、ネットでは伝えられないもの、伝わっていないものをリアルな場で伝えていく、残していくことが大切なのではないかという話がありました。

また、今の日本の図書館は「貸出をする場」という概念が強すぎると言われています。だからこそ、「貸出をする場」から「学びの深まる場」という概念に遷移していくことで、地域に学びが深まる場所ができるのではないでしょうか。そのためには、実際に貸出をするだけではなく、その場所で学びを深めるブックツーリズムライブラリーツーリズムといった取り組みが今後生まれてくると語られました。

 

東京藝術大学大学院映像研究科教授の桂 英史さんによるトーク

次に、東京藝術大学大学院映像研究科教授の桂 英史さんがプロデューサーとして関わったプロジェクトを紹介されながらのトーク。その中で、私が一番印象に残った「せんだいメディアテーク」の立ち上げに関して、東日本大震災震災での出来事を交えながらご紹介されました。

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東日本大震災で気づいたまちづくりに一番大切な存在

せんだいメディアテークは1995年に、ある建築家のスケッチから始まりました。図書館やアート展などをまとめる言葉「メディアテーク(メディアの棚)」という言葉の可能性に桂さんは共感し、役所と建築家の代わりに利害関係を考える人としてせんだいメディアテークに携わりました。

しかしその過程で、市民のことなど考えられない建築家に疑問を持ち始めたといいます。特に、それが顕著に現れたのが東日本大震災時です。

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東日本大震災が起こった2014年3月11日、せんだいメディアテークも上の写真のように大きな被害をうけました。その際に、せんだいメディアテークを建てた建築家は、真っ先に建物の修復をどうするかということにしか興味がなかったといいます。

一方、桂さんはメディアテークの復旧、仙台市の復興を考えたときに、真っ先にメディアテークで働いている人たちが一番大切な存在になってくる、そう信じて多くの復興プロジェクトをメディアテークのスタッフたちと立ち上げました。その結果、現在でもメディアテークのスタッフや市民による数十個のプロジェクトが展開されています。

今後、人口減少による財政縮小の21世紀の日本において、スケールメリットを追求する建築家は必要なくなるといいます。コミュニティデザイナーのような新しい建築家が出てきた背景にあるのは、スケールメリットを追求する20世紀の建築に対する反動なのかもしれません。

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コミュニティ間に利益相反がある状態が一番オモシロい

また、桂さんは日常の生活の中にある利益相反がある状況が一番面白いと語ります。この利益相反に関して非常に学びが多かったため、ここでは紹介せず次のブログで述べさせていただきます。

 

Rhizomatiks代表取締役の齋藤 精一さんによるトーク

今年の紅白歌合戦でのドローンを使ったPerfumeの演出、きゃりーぱみゅぱみゅが出演する渋谷や東京タワーをスマホでジャックするauのCM。それらのクリエイティブを手がけるメディアアート集団 Rhizomatiksの代表取締役の齋藤 精一さん。そんな斎藤さんは、仙台東西地下鉄線WEプロジェクトにも関わっていらっしゃいます。

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移動以外の価値づくりへの挑戦

「仙台東西地下鉄線がおそらく日本最後の地下鉄になる」

斎藤さんはそうおっしゃいました。人口減少社会の真っ只中にいる日本において、数年前から始まった仙台市で新しく地下鉄を作るチャレンジングな取り組み。斎藤さんはハード面ではなく、ソフト面で携わり始めました。しかし、今年12月開通にあたって、当初市民から地下鉄なんていらないという声もあったそうです。

そういった声に対して、地下鉄に移動の価値以外を見い出せないかとプロジェクトメンバーで考えました。そこで考えついたのが「WE SCHOOL」「WE TUBE」「WE STUDIO」という3つの場です。それら3つの場によって、最終的に市民の方々自らが動き出す仕組みを考えました。

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WE SCHOOLとは、市民プロデューサーを育てていくことを目的に、これからの仙台をつくるために必要な知識やノウハウを学ぶための場所。WE STUDIOとは、WE SCHOOLで学んだ市民プロデューサーが、仙台を盛り上げるためのプロジェクトを具体的に生み出し、実践していく実験的な場所。そして、WE TUBEとはすべての駅に設置される、双方向のデジタルサイネージです。

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WE TUBEでは、WE STUDIOで生み出された市民によるプロジェクトや沿線でのイベントが定期的に発表されていきます。そしてTUBEを見た人は、そのプロジェクトやイベントをその場で応援したり、参加することができる斎藤さんらしいデジタルインタラクティブな要素を盛り込んでいます。

鉄道を中心に市民が関わっていき、まちに引き寄せられる渦ができていく。今後、この地下鉄が市民の人たちによってどう作られ、どうまちに対しての意識が変わっていくか、そしてどう語られていくのか楽しみで仕方ありません。

 

WIRED編集長 若林恵さんによるトーク

テクノロジーの後半では、WIRED編集長の若林恵さんに御登壇頂きました。若林さんの「日本のメディアの2極化問題」、「デモグラでは切れない時代の読者ターゲットとは?」の2つの印象的なお話をご紹介します。

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メディアの多様性による情報のダイナミズム

「日本はマスメディアと草メディア(ソーシャルメディアやウェブメディアなど)が二極化している」

若林さんは日本とアメリカの情報のダイナミズムの違いに関してお話されました。例えば、アメリカではビヨンセの新曲がリリースされると、ローリング・ストーンズやニューヨークタイムズなどが記事として取り上げ、さらにはブロガーや個人メディアが異なった切り口から曲に対して批評し、それをまたハフィントンポストのような中間メディアが草メディアの情報をすくいあげることで情報にダイナミズムが生まれているといいます。

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一方、日本のメディアはYahoo!やマスメディアの情報がぐるぐる回っているだけ。また、Yahoo!やマスメディアからの情報をブロガーや個人メディアが取り上げるものの、ただYahoo!やマスメディアの情報をコピーペーストしているだけで情報に多様性がなく、ダイナミズムが生まれていないといいます。多様性に乏しい日本のメディア文化を非常に危惧しているように感じました。

デモグラでは切れない時代の読者ターゲットとは?

次に、「人間はどんどん複雑になっている」と若林さんはいいます。

その中で、例えばWIREDの読者は「年齢20代、30代。趣味はランニングで新しいITサービス好き」と従来のやり方で読者セグメントを切っても、具体的なターゲットを想像しにくい時代になっているといいます。

けれども、WIREDの読者ターゲットを「Appleユーザー」と言ってしまえば、ぼんやりしていたターゲットが非常に具体的に見えてこないでしょうか。なんとなくiPhoneを持って、休日はiTunesで音楽を聞きながらランニングをしている姿が想像できる。つまり、読者ターゲットをAppleユーザーと言い切ることで、そこから彼らの行動が想像できるようになります。

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読者を年齢、趣味、趣向で切るのではなく「WIREDといえばAppleユーザーが読者だよね」というふうにセグメントを言い切ってしまうことが、今の時代メディアを作る上で大切だということだと私は感じました。

 

『greenz.jp』副編集長の小野裕之さんによるトーク

「コミュニティ」の前半では、『greenz.jp』副編集長の小野裕之さんに御登壇いただきました。greenz.jpのミッションは「ほしい未来をつくるソーシャルデザインの生態系づくり」そのために、日頃からビジネスモデルとしてコミュニティやメディアを考察されています。

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[メディアの分類×ビジネスモデル】から見るメディアの仕組みづくり

たとえば、cookpadは「ウェブ×ユーザー課金」、FAVVOなら「ウェブ×マーケットプレイス」、TEDなら「イベント×寄付」、そして暮らしの手帖なら「雑誌×ユーザー課金」という形で[メディア×ビジネスモデル]の仕組みづくりをしています。

そして、[メディア×ビジネスモデルの形]は、「情報やサービスを届けたい相手に何を実現してほしいか」によって規定されているといいます。ちなみにgreenzは「ウェブ×コンサル」の仕組みでメディアづくりをしているそうです。

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「え、greenzってウェブ広告じゃなくてコンサルで儲けてるの?知らなかった!」という方は多いのではないでしょうか?当初、社会問題を解決したい会社や地域の問題を解決したい自治体からウェブ広告を出稿してほしいと依頼もあったそうです。しかし、ウェブ広告を出稿するだけでは、認知度は向上してもその会社や自治体が解決したい根本の問題は解決されないのではいか?そういう疑問から、企業や自治体が抱える問題に中長期的に向き合うコンサルというビジネスモデルに行き着いたと小野さんは言います。さらに詳しい内容はこちらgreenzの記事で。

さらに小野さんは、今あるスキルやソースを使って仲間と形にしていく大切さを語られました。そのために、200人以上いるgreenzライターとの定期面談や、運営メンバーとの合宿などミッションを実現するための仕組みづくりにも力を入れています。

 

FabLabKamakura,LLC 代表の渡辺 ゆうかさんによるトーク

FabLabKamakura,LLC 代表の渡辺 ゆうかさんは、Fab(ファブリケーション)を世の中に広める活動をされています。では、なぜここまでFabが注目されるようになったのでしょうか?

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21世紀、インフラはWEBとFABになる

ここ数十年で、ビジネスやまちづくり、研究開発、教育、芸術表現などがすべてがWEBの下支えのもと成り立つようになりました。なにかプロジェクトを立ち上げる、仕事をするときにWEBは欠かせない存在になっています。そして今後、20世紀にできたWEBの上に21世紀のインフラとしてFABが成り立ち、これからビジネスやまちづくりを支えることになると渡辺さんは未来を語ります。

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その背景には、生産者と使い手(生活者)の関係があります。20世紀の生産と使い手の関係は、全く別でした。「企画者⇒製造者⇒販売者⇒使い手」という構造で20世紀のものづくりは成り立っていました。けれども、テクノロジーの発展により「企画者=製造者=使い手」という関係になりました。そして、全ての人がものづくりに関わることが可能になりました。それがFABだといいます。

もちろん、全ての製造業がFABの上に成り立つとはまだまだ私たちは考えられません。しかし、ある程度のモノなら誰でも作れるようになる。そういうった未来が来るのも近いのではないでしょうか。

 

6人の講師によるさまざまな角度から語られた「地域×メディア」に関する内容。濃いすぎる内容にかなり割愛する部分が多かったのが残念ですが、次回ブログではこの記事では紹介できなかったグループワークで体験した内容をまとめ、AirbnbやUberなどのサーヴィスが様々な都市や地域で使われるようになった理由を「地域×メディア」の観点から紐解いてみたいと思います。

記事に関してコメントや連絡頂ければと思いますので、お気軽にどうぞ!

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