地域プロモーション(中)〜シビックプライドの醸成〜

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前回のブログでは、「地域プロモーション(上)〜クリエイティブファーストからの脱却〜」というタイトルで地域プロモーションを考える上でクリエイティブファーストではなく、戦略の上にクリエイティブがあることでクリエイティブが生きるという内容を書かせて頂きました。

少し時間があいてしまいましたが、次に人口減少問題が叫ばれる昨今、四国、さらには香川県という過疎先進地域が抱える地域の問題、また地方自治体が抱える問題をシビックプライドの観点から述べたいと思います。これらの問題は、他地域にも共通していることであり、自分が住んでいる地域に置き換えて考えて頂きたいです。さらにそこから、私自身が興味関心を持って学んでいる「シビックプライド」について香川県や海外の事例も含め述べていきます。

 

地域が持つ少子高齢化の課題

 

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上の写真は先日、香川県にある塩飽本島(しわくほんじま)という島に取材にいった時の風景です。フェリー乗り場には60才~70才の年配の方しかいらっしゃらず、あと10〜20年すればこの人たちはいなくなるのだろうと悲観してしまいました。もちろん、塩飽本島にも子どもをお持ちの若い漁師の方々もいらっしゃいます。そして、このままでは10年〜20年先に残る未来の風景か必ずしも望ましいものではないと、若手の漁師の方々も気づいています。「なんとかかして島に人を呼べないのだろうか」そういう言葉が心の底から出てくるのを一緒に島でとれる海産物料理を囲んで宴をする中で感じました。しかし、無情にもデータは私たちに現実を突きつけます。(下記グラフ情報出所 : 総人口の推移。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2006年12月推計)

地方自治体(地域)にとって、デッドラインが近づいている”少子高齢化”の問題。香川県においても2025年には人口が100万人から90万人に減少すると予想されており、日本全体においても2055年には全人口の4分の1が減ると予想されています。この地方自治体の問題を解決するのは、前のブログでお伝えしたように「交流人口を増やす(観光)」、「定住人口を増やす(移住)」の2つしかありません。 (さらに移住は、「国内の他地域から」と「他国から」の2つが考えれますがここではひとまとめにします)このような背景がある中、ただ地域が観光地または生活地として消費されるだけでなはなく、その地域に愛着や誇りを持ってもらい、その地域がいかに長く愛されるかが大切になってきます。言い換えると、LTV顧客生涯価値の向上が求められる時代に突入したということです。そこで「地域が愛される」ために必要になってくる概念が「シビックプライド」だと私は考えます。

 

県民のシビックプライドの課題

次に、地域の魅力や良さを知ってもらうために重要になってくる「シビックプライド」の課題についてお話します。

まず、シビックプライドとは?

ここでは、東京理科大学理工学部建築学科准教授の伊藤香織氏と元日本デザインセンタープロデュース室チーフプロデューサーの紫牟田伸子氏が監修を務めた書籍「シビックプライド―都市のコミュニケ​ーションをデザインする」をもとに述べていきます。まず、書籍の中でシビックプライドは以下のように定義されています。

シビックプライドとは都市に関係する人々(そこで住んだり、働いたり、遊びに来たりする人たち)が、その都市に対してもつ誇りや愛着のこと

私たちがまちに出ると、素敵な音楽が流れていたり、こだわりの地元食材が集まったイベント、素敵なポスターや看板、有名な建築家が作った建築物、そしてオモシロい人で溢れています。けれども、まち行く人たちはそれにあまり気づいていません。では、その人たちはまちや地域のことが嫌いなのでしょうか。実は、そういう人たちは地域やまちのことが嫌いなのではなく、ただ無関心なだけであると考えます。つまり、その地域に住んでいる人たちは、その地域が嫌いなわけではなく、親がその地域の出身だから、また仕事の関係上の理由からその地域に住んでいます。そのため、好きや嫌いなどの感情を自覚していない状態だといえます。(一方、地方出身で一度東京などに大学や仕事で出られた方は、ソトから初めて自分の地域を見たときに自分の地域の良さを感じ地元に愛着を感じたり誇りを感じたりします。これは必ずしも全都道府県にいえることではないですが。)

では、実際にシビックプライドの要素である愛着度と自慢度を都道府県別に地域ブランド研究所が調査した結果を見てみましょう。下記の結果は、実際にその地域に住んでいる住民に対して行った調査です。興味深いことに、トップ3は「沖縄」「北海道」「京都」と旅行の定番として挙る地域が順等に並んでおり、「旅行で人気な都道府県地域」と「その地域の住民の愛着度や自慢度」はなんらかの相関関係にあるといえます。(鶏が先か卵が先かは分かりませんが) 次に私が居住している香川県に目を向けてみましょう。香川県は、愛着度ランキング全国27位、自慢度ランキング24位と全国の真ん中に位置しています。一方、同じ四国に位置する高知県に目を向けると愛着度ラインキング自慢度ランキングともに5位とランキング上位に位置しているのです。そして愛着度に関しては、高知県は「52.0」、京都府は「53.3」と京都に負けない数字を出しています。

次に、その地域に住んでいる住民だけでなく他都道府県民も含め魅力度の全国調査を行うとどうなるでしょうか。結果は、高知県はランキング27位、京都府はランキング2位になってしまいました。つまり、全国的にはやはり高知県よりも京都府の方が魅力的に感じる傾向が強いが、高知県民自身は自分の地域に対して強い愛着や誇りを持っていることがわかります。一つの理由として、他の地域にない自分たちの地域の良さや魅力に県民自身が無意識なのではなく自覚し、自分たちの地域とコミュニケーションをする中で高知県のアイデンティティーを感じたり、高知県を体験しているため、県民の愛着度や自慢度が高い結果になっているとではないかと推測します。

地域ブランド調査

では次に、私たちはどのようにまち(地域)を楽しんでいるのでしょうか。ここで大切になってくる考えが、先ほどから何回か使っている「まちと市民がコミュニケーションする」という考え方です。そしてそのコミュニケーションの中で、まちに少しずつ愛着や誇りを持ってもらうことが重要になってきます。では、「まちとコミュニケーションする」とは実際にどういうことでしょうか。また、まちのコミュニケーションポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。下記図は、シビックプライド研究会が作成されたコミュニケーションポイントをまとめたものです。

コミュニケーションポイント

シビックプライド研究会の方々は、 以上9つの部類にまちとのコミュニケーションポイントは分けられると書籍にて述べています。さらにここ数年で、地域では観光の際に「人」が重要やコミュニケーションポイントとして機能している印象を受けます。例えば、福井県の人を紹介するトラベル誌「福井人」や最近発売された東北三陸の素敵な人に会いにいくトラベル誌「三陸人」などは、「人」を中心にまちや地域を考えコミュニケーションポイントを作る新しい取り組みだといえます。

まちのコミュニケーションポイントと生活者のコミュニケーションの変化

私たちは、「Digital」で「Social」な時代に生きているといえます。「Digital」のおかげで、簡単に自分が訪れたことのないまちの二次情報を得れることができるようになりました。そして「Social」のおかげで、自分自身が情報発信者になることができました。そういう流れの中で、まちのコミュニケーションポイントに対する生活者のコミュニケーションが変化してきたのではないかと考えます。それをうまく理解すれば、もっとまちや地域のことを知ってもらったりイメージしてもらえることができるのではないでしょうか。では、下の写真を見てください。

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多くの人が目にしたことがある直島のカボチャ。デザイナーの草間弥生さんがデザインされたこのカボチャが瀬戸内海のシンボルとなり、多くの人があの場所に行ってみたいと思うようになりました。ただ、カボチャを建てただけでなぜ多くの人があの場所に関心を持ち、さらには訪れてみたいとおもうようになったのでしょうか?それは、その地域や場所に意味を持たせること(ブランディング)をしたからです。上にある写真のカボチャだけを指で隠して瀬戸内海の景色を眺めてみてください。そうするとこれが瀬戸内海なのか、それとも他の海外の海なのかぼんやりとした存在(イメージ)になってしまいます。しかし、そこにカボチャを置くことによってその土地と流れる時間に意味を与えます。カボチャに注目が集まることで、周りの瀬戸内海の風景やそこに流れる時間がより引き立つ存在になるということです。それが瀬戸内海らしさを引き立てています。もしこのカボチャがなければそれには気づかない人は多いと思います。そして、その場所に意味を持たせると生活者はどのような行動をするでしょうか?下の写真を見てみてください。

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律儀にも、一列に並んで写真撮影をするようになります。(笑)そして、またこのカボチャの非常に優れていることは、どの角度から写真を撮影しても絶対に瀬戸内の海が背景に入るようにデザインされている点です。そして、DigitalでSocialな時代においてそれをSNSやブログを通じネット上に配信することが当たり前になりました。だからあなたはこの土地に行ったことがなくても、この場所が瀬戸内に浮かぶ直島という島に存在するということを友人のSNSやブログの写真を見て知ったのではないでしょうか?それは、広告的文脈が強い写真よりもよりパーソナルなメッセージを含み、あなたのその地域に対するイメージを作り上げます。そして、雑誌の編集者の方々も下記のようにその地域をイメージしやすい写真を利用し、雑誌を編集します。これによって、その地域のブランドイメージは拡散していくのではないでしょうか?

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さらに「都市に関わる市民」にコンセプトを置きコミュニケーションに落とし込んだ事例があります。それが下写真の 「I ♡ NY」の都市キャンペーンです。

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上の写真を見たときに、もしこの場所にこのアートがなければニューヨークかそれともロンドンか、私たちは分からないのではないでしょうか?しかし、友人のブログやSNSで「ニューヨーク行ってきました!」というコメントとともにこの写真を見たときに、ここがニューヨークであるということを認知します。さらに、このキャンペーンの優れている点はニューヨークに関わる人々のニューヨークに対するシビックプライドを喚起するよう設計されていることです。また、オランダのアムステルダムが行った「I amsterdam」はさらに「市民がアムステルダムを表現する一人である」というコンセプトに落とし込んだ長期的マーケティング戦略によって、都市キャンペーンを10年前に展開し今もなおその都市キャンペーンによるシビックプライドの醸成は続いています。

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では、次のブログ記事では、実際にヨーロッパを旅した際にアムステルダムにて「I amsterdam」キャンペーンを展開したクリエイティブエージェンシー「KesselsKramer」の社員にインタビュー取材を行った内容をまとめ自分の考えを綴りたいと思います。読了頂きありがとうございました。

地域プロモーション(下)~10年後も続く都市キャンペーンの作り方~

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