都市におけるストーリーテリングの形とは:都市を見る目をアップデートする

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2006年、長崎さるく博という「まち歩き」のムーブメントをご存知でしょうか。市民ガイドがまち歩きツアーを企画し運営。プレイベントも含めると1000万人が動いた市民によるムーブメントでした。そして、2006年長崎さるく博が終わった今でも、「長崎さるく」という名前で「まち歩きツアー」は健在です。

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今年のゴールデンウィーク、長崎に訪れた私は長崎さるくツアーに参加しました。そしてそこには、市民ガイドの方々による「まちを見る目を変えるためのストーリーテリング」という成功の秘密が隠されていました。

 

まちを知りたくなるまちのストーリー

長崎さるくは、歴史、食、文化など様々な角度からまちを体験するツアーや体験を実施しています。そして、これらにすべて共通しているのが、まちを歩いたり、体験したりすることで「長崎のまちのストーリー」に触れる機会を作っていることです。

例えば、マンホール一つとってもそこにはストーリーがあります。長崎のマンホールは星型をしています。それは日本が幕末の時代、安政の大獄で幕末の志士が弾圧される一方で「安政の開港」という全国5つの港を開港するという幕府の動きがありました。そのうちの一つが長崎であり、長崎市はその歴史を表現するために街中に見かけるマンホールの形を星型にしました。そこには、脈々と長崎市民の誇りが受け継がれ、表現されています。これは長崎だけではなく、日本全国にマンホールひとつとってもストーリーがあるのです。

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マンホールの例じゃあ、しっくりこないよという方へ(笑) 長崎ではなく、東京渋谷に視点を当ててみましょう。私たちは、渋谷は刺激的な側面を持つ一方、人が多くてゴミゴミしている無機的な場所であり、渋谷にまちとしてのストーリーはないという認識を持っている人は多いのではないでしょうか?けれども実は、渋谷にもまちのストーリーがあります。

都市化によって、渋谷は暴力的に破壊されてしまいましたが、等高線や地面の傾きにその痕跡を残しています。例えば、渋谷にある宮益坂は、旧称では富士見坂とも呼ばれていました。そして、今でも坂の一番下に「富士見坂」と書かれた印が残されています。もうお分かりの方もいらっしゃると思いますが、実はここ渋谷から富士山が見えていました。当時、このあたりは旅人が旅の疲れを癒す茶屋町として賑わった背景があり、旅人はこの坂から富士山を眺めながら旅の疲れを癒していたのかもしれません。渋谷にも、このようにストーリーが隠されているのです。さらに渋谷は、谷という名前が付くように「谷」としての歴史があり、渋谷川という川が未だに流れているのです。

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私たちは、日本の都市を魅力的に感じないのはこういったストーリーを知らずに、まちを見て歩いているからです。実はどんなまちにもそういったストーリーが隠されています。

例えば他にも、香川県を例にあげてみましょう。香川県には、香川県出身でない人でもどこか懐かしく感じさせてくれる山の風景と平野が広がっています。

なぜ出身でもないのに懐かしく感じるような風景が香川県に広がっているのでしょうか?なぜなら、あの「まんが日本昔ばなし」の原作、演出、作画、美術を担当したのは香川県出身の方だったからです。故郷の風景を描くとき、地元香川県の山を参考にして作品をつくりあげました。だからこそ、あのようなお茶碗をひっくりかえしたような形の山になり、私たちは知らず知らずのうちにその風景に懐かしさを覚え、どこかまるで「日本のふるさと」に帰ってきたような感覚にさせてくれるのです。

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まちを見る目をアップデートする

けれども、既存の一般的観光はただおしゃれなお店に訪れ、ただ美味しいものを食べて、温泉に入るということに留まっていないでしょうか。このまま人々の都市を見る目が変わらず、むしろ衰弱していくと、それに比例して都市そのものの魅力も衰退していく可能性があります。今一度、まちを捉え直す観光ではなく「まち歩き」の仕組みづくりを考える必要があるのではないでしょうか。

そこで、都市の魅力を高めるためにはまちを見る目をアップデートするという考え方が必要になり、そのために「そのまちのストーリーを伝えること」が、圧倒的に重要になってきます。

長崎さるくは、私たちが知らない「まちの見方」を学んでほしいという思いが込められた市民ガイド主体の取り組みをしました。市民のリアルな目線だからこそ、私たちは共感し、そのまちに対して愛着を感じるようになるのではないでしょうか。

まちのストーリーを伝えるニューヨークのデジタル施策「OldNYC」

長崎さるくは、リアルにおいてまちのストーリーを伝える仕組みづくりに成功しました。一方、「OldNYC」は、デジタルにおいてまちのストーリーを伝える取り組みを今年6月から始めています。

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OldNYC」は、ニューヨーク公立図書館に保存されていたニューヨークの昔の写真を約4万枚マッピングし、その街角の昔の姿が見られる公立図書館が主導して始めた取り組み。日本の渋谷と同じように、劇的に都市化する過程で都市の形を大きく変えたニューヨークのマンハッタンを中心にまちを俯瞰できるようになっています。

そして、その裏側には隠されたストーリーをテクノロジーを使って巧みに表現しています。そして誰もが自分オリジナルのまちでのストーリーを書き加えることができるようになっています。だから何という質問が出てきそうですが、例えばこれらの写真を使って実際にまち歩きツアーを企画したり、ARを使って当時の町並みを再現し、「I ♡ NY」とはまた違ったシビックプライドキャンペーンを実施することも可能です。

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まちは人と同じ、生き物です。人においても私たちは、その人が生きたストーリーを知ることでその人に共感したり、もっとその人のことを知りたいと思います。都市も同じで、その都市のストーリーを知ることで、その都市に共感し、また訪れたい、そのまちに住みたいと感じるようになります。都市のストーリーはさまざなな切り口から考えることができるのです。

最後に、長崎さるくのツアーに参加する中で市民ガイドの方々から「気持ちよく帰っていただきたい」、そんな気持ちが伝わってきました。まち歩きのプロフェッショナルである長崎市民、そして坂本龍馬をはじめ幕末の動乱を駆け抜けた志士たちのおかげで長崎に愛着を持ち、また訪れたいと思わせて頂きました。そんな長崎に本当に感謝の気持ちしかありません。

また帰ってくるぜよ。最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

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